OUTLINE
マテリアマインド:物心共創人類史学の構築
領域代表挨拶
文理横断的研究の重要性が意識されて久しいですが、それでも「人間とは何か」という根本的な問いへの答えが十分に刷新されるには至っていません。近年古代ゲノム関連や古環境・古気候変動に関する理化学的研究の進展により、ホモ・サピエンスの誕生と移動、環境適応の実態については多くのことが分かってきましたが、その一方で、人類の進化、文明の形成、私たちの未来を考えるうえで極めて重要でありながら世界的に研究が遅れているのが、ヒトとモノとの共創関係です。本研究領域は、ヒトによる環境構築と、ヒトの認知・身体・行動の変化との絡み合いについて、文理の枠を超えた超領域的共同研究によってそのメカニズムを明らかにし、人類の来し方行く末を統合的に理解する新モデルを提示しようとする野心的なものです。
私たちが目指すこの文理融合研究は、単に文・理の研究者の連携や、人文学に理系の技術や手法を持ち込み「科学化」する月並みなものではありません。理系分野に人文学的概念や論理を持ち込むことで、学知の構造の根本的変革を企図するものです。
現在人類が直面している環境破壊、戦争、貧困、ジェンダー格差、気候変動などの解決は、科学技術だけでは達成できません。技術開発に携わる研究者にも、人文社会科学的な「知」の浸透が必要であり、そのために新概念として提唱する「マテリアマインド」が大きく貢献できると考えています。
松本直子
教授
岡山大学文明動態学研究所 所長
領域概要
大規模・複雑な社会組織、高度な科学技術、世界宗教を含む様々な宗教的信念など、ヒトは他の動物行動とは大きく異なる特異的な文明を形成し、その変化は質量ともに拡大しつつある。このようなヒト特有の進化はなぜ起こったのか、我々はどのようにして現在の状況に至ったのかを知るには、文明がどのようにして起きたかを明らかにする必要がある。つまり、ホモサピエンス登場後、長きにわたる遊動的狩猟採集生活から、どのようにして定住化、動植物のドメスティケーション(家畜化・栽培化)、土器をはじめとする多様な物質文化の生産が始まり、人口増加と集住、社会の複合化が進み、大規模モニュメントの構築や儀礼・宗教の発達が起こったのかを理解する必要があるのである。そのためには、心と物質が分かちがたく結びついていることを正しくとらえ、モノ(物質文化)が果たした役割、つまりヒトがモノを創りモノがヒトを創るというヒトに固有の「物心共創」のプロセスとメカニズムを明らかにしなければならない。
本研究領域は、ヒトによる環境構築と、ヒトの認知・身体・行動の変化との絡み合いについて、文理の枠を超えた超領域的共同研究によってそのメカニズムを明らかにし、人類の過去と未来を統合的に理解する新モデルの提示を目指す。
「出ユーラシア」から「マテリアマインド」へ
本研究領域の前に取り組んだ新学術領域研究「出ユーラシア」では、ユーラシア大陸を出て、日本列島、アメリカ大陸、オセアニアに進出した集団によって相互に独立して展開した文明について比較研究と分野を超えた理論研究を行い、ヒトに特異的なニッチ(生態的地位)構築メカニズムを探求する統合的人類史学の枠組みを構築した。本研究領域は、この成果の先端的な部分をさらに発展させて、ヒトが作り出すモノと心が一体となって展開するメカニズムを明らかにする。
6つの研究班による物心共創人類史学の構築
A01(物質と心班) | 数万年にわたり、心-身体-認知システムがどう変化したのか |
A02(人間と環境班) | 自然の営力と人間の営為の絡み合い、環境と心の共創関係 |
B01(行動と制度班) | ヒトの認知能力の限界と可能性、認知能力の一大転換メカニズム |
B02(アートと感情班) | 認知科学と人類史研究の融合、行動・脳・文化の統合的理解 |
C01(遺伝子と文化班) | 「ヒトらしさ」の進化生物学的基盤、新しい進化の因果構造のモデル化 |
C02(表象とモデル班) | 3Dモデルの体系的取得と定量的分析、マテリアマインド形成のモデル化 |
6つの研究班による共同研究
物質文化がいかに人間の身体・脳・心を作ってきたか
人類史においてモノ(物質文化)が果たした役割に注目し、「物心共創」のプロセスとメカニズムを明らかにする。これにより、人類進化の本質にも迫るものである。
人文知の理系分野への浸透(学知構造の変革)
現在私たちが直面している環境破壊、戦争、貧困、ジェンダー格差などの解決は、科学技術の進歩だけでは達成できない。技術開発に携わる研究者にも人文社会科学的な「知」の浸透が必要である。そのために、この文理融合研究における新概念「マテリアマインド」が貢献する。
新しい進化モデルの提唱
遺伝子から神経生理・認知・行動・社会までを境目なく結合した新しい文化進化モデルを提唱する。
メンバー
総括班 マテリアマインド:物心共創人類史学の構築 | |
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代表 | 松本直子(岡山大学) |
分担者 | 大西秀之(同志社女子大学) |
川畑秀明(慶應大学) | |
山口徹(慶應大学) | |
山本真也(京都大学) | |
中尾央(南山大学):事務局 | |
協力者 | 入來篤史(理化学研究所) |
中園聡(鹿児島国際大学) | |
A01 モノとヒトの相互構築史:マテリアマインドの実証的・理論的研究(物質と心班) | |
代表 | 松本直子(岡山大学) |
分担者 | 石村智(東京文化財研究所) |
上野祥史(国立歴史民俗博物館) | |
高倉純(北海道大学) | |
寺前直人(駒澤大学) | |
時津裕子(高千穂大学) | |
中園聡(鹿児島国際大学) | |
福永将大(九州大学) | |
松木武彦(国立歴史民俗博物館) | |
松本雄一(国立民族学博物館) | |
A02 環境とヒトの相互構築史:汎太平洋の比較研究による文理統合的研究(人間と環境班) | |
代表 | 山口徹(慶應大学) |
分担者 | 今津勝紀(岡山大学) |
苅谷愛彦(専修大学) | |
小林誠(北海道大学) | |
荘司一歩(山形大学) | |
鈴木茂之(岡山大学) | |
鶴見英成(放送大学) | |
本郷千春(千葉大学) | |
光本順(岡山大学) | |
山野博哉(国立環境研究所) | |
渡部森哉(南山大学) | |
協力者 | 久世宏明(千葉大学) |
清家章(岡山大学) | |
棚橋訓(お茶の水女子大学) | |
深山直子(東京都立大学) | |
宮﨑祐子(岡山大学) | |
山口雄治(岡山大学) | |
ライアン・ジョセフ(岡山大学) | |
B01 民族誌研究による認知世界の拡張メカニズムの解明(行動と制度班) | |
代表 | 大西秀之(同志社女子大学) |
分担者 | 小谷真吾(千葉大学) |
近藤宏(神奈川大学) | |
長井謙治(愛知学院大学) | |
中尾世治(京都大学) | |
平川ひろみ(奈良文化財研究所) | |
山口未花子(北海道大学) | |
協力者 | 佃麻美(東北大学) |
相馬拓也(京都大学) | |
田中佑実(北海道大学) | |
小田英里(同志社女子大学) | |
B02 認知科学と人類史学との協働による創造的人工物生成過程の解明(アートと感情班) | |
代表 | 川畑秀明(慶應大学) |
分担者 | 齋木潤(京都大学) |
齋藤亜矢(京都芸術大学) | |
吉田晃章(東海大学) | |
藤井進也(慶應大学) | |
田中雅史(早稲田大学) | |
C01 生命・物質・文化を統合するマテリアマインド進化モデルの構築(遺伝子と文化班) | |
代表 | 山本真也(京都大学) |
分担者 | 入來篤史(理化学研究所) |
岡瑞起(筑波大学) | |
大坪庸介(東京大学) | |
石井敬子(名古屋大学) | |
上川内あずさ(名古屋大学) | |
協力者 | 足立幾磨(京都大学) |
田中彰吾(東海大学) | |
田中良弥(名古屋大学) | |
松永昌宏(愛知医科大学) | |
村山美穂(京都大学) | |
C02 考古・人類学データの多次元表彰とモデリングによる文化動態の解明(表象とモデル班) | |
代表 | 中尾央(南山大学) |
分担者 | 金田明大(奈良文化財研究所) |
田村光平(東北大学) | |
中川朋美(名古屋大学) | |
協力者 | 野下浩司(九州大学) |
舘内魁生(東北大学) | |
Advisory Board | |
山極壽一(総合地球環境学研究所) | |
長谷川眞理子(東京都医学総合研究所) | |
室山哲也(日本科学ジャーナリスト会議) | |
後藤明(南山大学) | |
Sander van der Leeuw(サンタフェ研究所) |