A02 人間と環境
自然の営力と人間の営為の絡み合い、環境と心の共創関係
環境とヒトの相互構築史:汎太平洋の比較研究による文理統合的研究(人間と環境班)
産業革命以降、地球環境のすべてに人間の影響が及んでいるという人新世の主張は、西洋近代の中心的な二分法である自然と人間の境界を溶かす視座として広く注目を集めている。しかし、考古学の発掘現場では、その感覚は決して新奇なものではない。出土物や土層そのものの存在を人間の営為によるものか自然の営力の結果か、明確に切り分けることは困難だと実践的に実感しているからである。とはいえ、二分法をのり越える学術的な術を提起することに考古学が成功しているわけでもない。まさにここに、核心をなす問いがある。「自然の営力と人間の営為の絡み合い(entanglement)」にいかにせまれるだろうか?計画研究A02班では、その方法を探求するために、考古学を媒介にして地球科学と文化人類学/文献史学の関連分野を節合し、文理融合で協働するための共通手法を、オセアニア、南アメリカ、そして日本という汎太平洋の3フィールドで試行する。
特に、人新世との関連で取り上げられる新規生態系(novel ecosystem)に着目している。生態系の急激な変化に晒された生物種の適応/不適応を扱う研究トピックである。人間自身も、自然災害による環境悪化や自らが改変した環境に左右されながら生きてきた。その暮らしを共有することで社会環境の網の目にも取り込まれてきた。こうした人間による環境の構築性と環境による人間の絡め取りの両面に、事例研究を通してアプローチしたい。その思いを共有する3つのフィールドで、たとえば無住の島への移住や気象災害による攪乱、鉄器生産といった技術革新、あるいは植民地期の異文化遭遇によって生じた生態系と社会の激変期に光を当ててみようと思う。その探求を通して、長期的時間スケールで地球科学と連携するジオ考古学と、共時的/短期的時間スケールで文化人類学や文献史学と連携する民族考古学/歴史考古学の2つの方法論を精緻化することがA02班全体の目標である。